AIの歴史 – エキスパートシステム –
昔から人間は自分が働らかないですむ方法を考えてきました。
例えば犬は人や家畜を守らせるために狼を家畜化させたものですし、物を運ぶために牛や馬が使われてきました。
産業革命による手作業の機械化も、人間以外に自動的に働かせ、より多くの成果を得られるようにしたものです。
他の生き物 ➡︎ 機械(ハードウェア) ときて、今回の波はソフトウェアのAIです。体の動きの自動化の次は思考・判断の自動化の時代になりつつあります。
しかし、その歩みは今までの変化と同じく簡単なものではありません。AIにも歴史があります。
過去に何があったのかを知って、今何が起きてるのかを理解するのに役立てましょう。
今回は第2次AIブームの中心となった「エキスパートシステム」について紹介します
エキスパートシステム
「複雑な要素が絡み合う現実の問題は解決できない」というAIへの失望から第一次AIブームは終焉を迎えました。「現実の問題」を解決させることがAIに人間が求めていることですから、絶対に解決させたい問題です。
そんな中生まれたアプローチが「知識」をコンピュータの中に大量に保存して解決させようというものでした。それがエキスパートシステムです。
エキスパートシステムとは
エキスパートシステムを簡単に説明すると、各分野の専門家の代わりに「利用者が入力した情報を分析して答えをくれるシステム」です。
文字を読んでもよくわからないので、分かりやすい例を紹介します。
もっとも端的にエキスパートシステムを表しているのは「Mycin」です。
「Mycin」は患者の伝染性の血液疾患を特定し、病気に合った薬と患者の体に合わせた量を指示してくれます。
診断結果の正答率は65%で、一般的な医者より正答率が高いと言う結果になりました。ただし、専門医の80%よりは下回りました。
その仕組みは、コンピュータが提示する多くの質問に対して患者を診ている医師が「はい・いいえ」「簡単な文章」「単語」で回答し、その回答から病気を特定するというものでした。
今度はエキスパートシステムについて、より詳しく見ていきましょう。
Mycinに代表されるエキスパートシステムは主に2つの要素で成り立っています。
推論エンジンと知識ベースです。
推論エンジン
推論エンジンを簡単に説明すると、以下のステップを実行するもの、と言えます。
①どの規則(Mycinで言えば質問や回答)が適切か、条件にあうものを全部取得する
②取得した規則から、どの規則を実行するのか選択したり順番を決める
③選択した規則を実行する
卑近なイメージで言えば、「本屋で目的の本を買う」が近いと思います。
例えば「最近芥川賞を受賞した作家の小説」を買うとします。
まずは「小説コーナー」にいき、あれば「芥川賞受賞作家コーナー」を見ますよね。
その中でお目当ての作家を見つけ、手に取ります。
そして、そのまま会計に持っていきます。
この各ステップがちょうど推論エンジンの動きにあたります。
そしてこの本屋の例において、ちょうど本に当てはまるのが知識ベースです。
知識ベース
「Mycin」の場合、「〜症状がでていて、かつ〜の場合」といった「if ~ then」という診断用の処理データが、推論エンジンとは別におよそ500入っています。
この知識部分と推論部分を切り分けたのがエキスパートシステムの大きな特徴です。
「文字列」などの情報ではなく、処理そのものをデータベース的な形で保存したのは新しい方法です。
エキスパートシステムの問題点
Mycinの一定の成功を見て、もっとたくさんの知識をコンピュータに入れたら、現実の問題が人工知能によって処理できるのではないか、と期待が高まりました。
しかし、エキスパートシステムには解決しなければならない問題があり、結局はその問題点が解決できる前に第2次AIブームは終焉します。
ここでも本屋の例で考えてみると分かりやすいです。
本屋には多くの本がありますよね。例えば経営手法を紹介する本はたくさんあります。
中にはしっかりと方法論が言語化できているものもあれば、精神論メインの本もあります。コンピュータというものにとって、後者は理解できません。
要するに、人間の考えや経験をしっかりコンピュータが判断できる形で落とし込む事ができているのかということです。
そして自己啓発本などで顕著ですが、本と本で逆のことを言っている場合があります。この場合どちらを優先すべきなのか、人間でも困ってしまいますよね。その時々に応じてというのが答えですが、コンピュータには「その時々に応じてという判断」を指示してあげなければできません。
更に言えば、「商法を勉強しよう」と思って大きな本屋にいくと、商法部分だけでも大量の本があります。その中でどれを選択すべきかとなると、人間でも時間がかかってしまいます。コンピュータも同様に、大規模になるほど処理をする能力が求められます。
そして何よりも、多くの需要に応えるためには大量の本を本屋は準備しなければならないということもあげられます。当時のエキスパートシステムでは、機械が自分で知識を取り入れていくことができません。代わりに人間が全ての経験や知識を手で入力させるとなると。かなりの時間を要します。
これらの問題から、人間に代わるような知能を持ったエキスパートシステムを開発しようとしたプロジェクトの多くは失敗しました。
まとめ
エキスパートシステムの開発には大きな期待がかかり、国家プロジェクトなどもありました。当時は失敗しましたが、コンピュータの性能が上がったことや機械学習技術の発達によって問題は解決しつつあります。今後はエキスパートシステムという名前ではないにせよ、エキスパートシステムが目指したものが完成するかもしれません。
エキスパートシステムの課題の一つである「何かしら人間が行っていた処理をコンピュータが行えるようにする」という点はなにもエキスパートシステムだけの問題ではありません。「この業務を自動化したい」と考える際に、それをしっかりと分解する必要があります。人が経験でしている処理を具体的にしなければならないのです。
エキスパートシステムが抱えていた問題は現代のシステム開発においても言えることです。
過去の問題と思わず、理解して気にかけることができるようにしましょう。