デスクワークにおける健康リスクと対策
昨今のテレワークの急速な普及に伴い、移動や時間の短縮などのメリットがある反面、健康被害を訴える声もちらほら聞こえてきます。
米カリフォルニア大学のチームによれば、新たに在宅ワーカーとなった人の64%が新たに一つ以上の身体の健康問題の訴えがあったとのこと。快適になったことも多い反面、デスクワークによる身体の負担やそれで起こり得る健康的な被害について軽視している人も多いのではないでしょうか。
デスクワークで起こり得る疾患
・生活習慣病生活習慣病とは、食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが発症の要因となる疾患の総称のことです。
これらの中でも注意すべき疾患が糖尿病、高血圧、脂質異常症です。これらは肥満から引き起こされることが多い生活習慣病です。
日本人はもともとインスリンの分泌能力が低いため、明らかな肥満体型でなくとも糖尿病をはじめとした生活習慣病になりやすい点に注意する必要があります。
また、在宅ワークによるカロリーの過剰摂取もいわれており、自宅から職場までの移動に往復2時間かかると仮定した場合とリモートワークを比較して1月あたり1.5〜2.5㎏体重が増加するとの報告もあります。
・生活習慣病長時間座ることの危険性
長時間座り、脚を動かさない状態を続けていると、肺の動脈が血液の塊である血栓によってふさがれてしまい、肺塞栓などを誘発してしまう状態のことです。
航空機での長時間移動などで起こりやすいといわれますが、在宅勤務などのデスクワークでも起こりえます。
・エコノミー症候群
シドニー大学が行った調査によると日本人の座位時間の中央値は約8時間で、世界一です。
座位時間にはデスクワークだけではなく、テレビやゲームなどの娯楽も含まれます。
ふくらはぎは「第2の心臓」と言われるように、下肢の筋肉の収縮によって血流のポンプ機能が働き、循環動態を助けています。長時間座り続けていると、全身の筋肉の70%を占める下半身の筋肉が動かないため、血流や血中の脂質代謝が低下し、血液中の中性脂肪の増加、善玉コレステロールの減少、血中インスリン感受性の低下などを引き起こし、動脈硬化などの悪影響につながるとされています。
具体的な数値をみていくと、一日に座位の時間が7時間を超えたところから死亡リスクは高まり、9時間を超えると約1.2倍、11時間を超えると1.4倍まで跳ね上がります。
また、1日6時間の座りっぱなし生活が10年~20年に達すると心臓疾患の死亡率が64%上昇し、前立腺がんおよび乳がんの発症率が30%増加するとの報告もあります。
適度に運動すればよいのでは?と思うかもしれません。
残念ながら、たとえ運動習慣があっても、座りすぎによる死亡リスクは変わらないことが示されています。つまり運動してるかどうかに関わらず、座位時間が長ければ長いほど死亡リスクは高くなってしまうということです。運動不足と座りすぎは別の問題です。
対策
・有酸素運動
厚生労働省は、健康増進のために1日あたり8,000歩を歩くよう推奨しています(距離にして約5km)。「運動時間」を意識的に創り出し、カロリーを消費するようにしましょう。また運動は肥満防止だけではなく脳の認知機能向上にもつながります。
・スタンドデスクを使用する
相対的に座位の時間を減らせます。仕事中に立ったり座ったりを繰り返すことで下半身の血流が良くなります。
スタンドデスクの使用が難しい場合はクッションなどをお尻にしきなるべく下半身が圧迫されないように気をつけ、1時間に最低でも1回は立ち上がりなるべく血行を妨げないようしましょう。
・適度な水分補給
血流が悪くなる原因の1つに水分不足がありますが、サントリーの調査によると、オフィスで働く人の約9割が1日に飲む「水」の量は、目安を下回る1.2L未満であることがわかっています。
2.0Lを目安に飲料による水分をとるように心がけましょう。
お茶やコーヒーなどのカフェインが多い飲み物の大量摂取は、好ましくありません。カフェインが多い飲み物は体を興奮させて集中力を向上させるものの、利尿効果が高く、かえって水分不足を招くリスクもあります。イオン飲料やスポーツドリンク、機能性飲料と呼ばれるものを選ぶと良いでしょう。
・仮眠をとる
お昼休みに短時間の仮眠を取るのも効果的です。
NASAの研究によると26分間の仮眠で、認知能力が34%、注意力は54%も向上することが確認されています。
まとめ
デスクワークにより引き起こされる代表的な疾患として生活習慣病やエコノミー症候群があります。
これは、肥満や座ることで下半身が動かないことにより血行が悪化してしまうために引き起こされるものです。
運動習慣とは関係なく座位の時間が長くなればなるほど健康へのリスクは高まるため、なるべく座位の時間は減らす必要があります。
具体的な対策としては意識的な運動や過剰カロリー摂取への留意、スタンドデスクの使用、水分補給、仮眠などが挙げられます。
今すぐに健康状態が悪くなるといったものではないですが10年、20年先を見た時に顕著に身体にあらわれてきます。こういった側面が軽視されがちな部分であると思うので意識的に健康へ配慮した生活を送っていく必要があると感じます。